第59話 準決勝後


「…こんな事ってあっていいの…?」

立海大付属の準決勝の試合を見た
そのS2に起こった出来事に愕然とする。

「青学は完膚無きまでに叩きのめす。」

「それじゃさん。決勝で。」

「じゃな!」

デビル誕生の瞬間を目の当たりにしたは試合が終わってもその場を動かなかった。

否、動けなかったのだ。

「…これが王者立海のテニス…勝者を引きずり落とす…。」

深く深呼吸をしてはスコアブックを持って受付に向かう。
だが先ほどの試合が頭から離れずに下を向いて歩いていた。
そしてそのまま前から歩いて来た人とぶつかってしまう。

「あたっ。」

「テメー。どこ見て歩いてんだ。」

「あ、すいませ…って…あれ?」

がぶつかったのは山吹中3年亜久津仁。向こうもの顔を見て気づく。

「あの…すいませんでした…。」

「何だ。今日はヤケに威勢が悪いじゃねーか。」

「……?」

亜久津の言葉には一瞬わけがわからずに首を傾げるがすぐに意図に気づいて持っていたスコアブックで顔下半分を隠す。

「…あ?何やってんだ。」

「あ、あの…油断大敵地震雷火事親父なんで…。」

はそのまま亜久津を見上げ亜久津がここにいる疑問をぶつけてみる。

「あの…山吹は2回戦で負けちゃいましたけど…。」

「あ?」

ギロっと睨まれがビクッとすると後ろからこちらに向かってくる足音。
と同時に腰に何かがぶつかってきた。

「姉ちゃーーん!」

「キャ!」

「?!」

腰への衝撃で前につんのめったは目の前にいた亜久津に抱き着き亜久津も思わず抱きとめる。

「アリ?どうしたん?」

「あ、さっき準決勝前にリョーマのトコ来てた…金太郎くん?」

「姉ちゃんどーしてこいつと一緒におるん?」

金太郎はに抱き着いたまま、は亜久津に抱きかかえられたまま。何とも奇妙な光景。

「ここで会ったんだよ。」

「さっき青学の河村っちゅーパワー自慢見に来てたでー。」

「え、ホントですか?」

「…チッ。」

罰が悪そうに舌打ちをして亜久津はから手を離しスタスタ歩いて行ってしまう。

「あ、あの…応援ありがとうございましたー!」

が叫ぶと亜久津は一呼吸おいてその言葉に答えるように右手を上げそのまま行ってしまった。

「…いい人だったんだ…。」

「なー姉ちゃん。ワイらとソーメンパーティーやらん?」

「ソーメンパ」

「金太郎。勝手にいなくなるなって言うたやろ。」

声の主はの言葉を遮って、金太郎の頭を持ってからベリッと引きはがした。

「白石〜。」

ちゃん、また会えたな。」

「うん。試合お疲れ様でした。」

「その言い方やとまるで俺らの負けがわかってるみたいやけど?」

白石が皮肉を込めて言うとはニッコリ笑って受け流す。

「おい白石ー金ちゃん見つかったんかー?」

「こっちにいたで。」

白石の後ろから声がし、がひょいっと体を横に傾けると目の前の白石と金太郎と同じジャージを来た男が2人走って来た。
そしてそこには…?

「あ!千歳!」

「さっきぶりたいね、。」

「結構時間経った気がするけどね。」

「手塚は強かったとよ。」

「試合したの?よかった♪」

は嬉しそうに千歳に笑いかける…が、もちろん他の面々もの笑顔に一瞬動きが止まる。

「自分あれやな、侑士が言っとった青学マネージャーか。」

ポンと手を叩いて言うとが不思議そうに眉根を寄せて首をかしげる。

「…侑士と知り合い?」

「侑士とはイトコやで。忍足謙也。」

「……侑士何か変な事言ってたんじゃないの〜?」

「まぁ変な事やないけど…。」

そう口ごもって謙也はから目線をそらす。

「ほらー。やっぱり変な事言ってたんでしょー!」

「ちゃうて…あーせやから…が可愛いって言っとったで。」

「…超ウソ臭い。」

「ウソちゃうて。」

「ウソやない、ちゃんめっちゃ可愛いで。」

白石がの肩を左手で抱くと金太郎が悲鳴を上げる。

「姉ちゃんまた毒手やでー!はよ逃げな!」

「大丈夫だよ?多分?」

は金太郎の反応を見て楽しそうに笑う。

「あ、そや。姉ちゃん、一緒にソーメンパーティやろ!な?な?」

「ソーメンパーティーって?」

「あぁ、これから顧問のオゴリで流しソーメンやるんや。ちゃんも参加せえへん?」

「私これから片づけあるから無理だ〜ゴメンね?」

「片づけなんてサボればええやん!」

金太郎は眉を下げて寂しそうにに言う。

「ダメだよ。仕事ちゃんとしないとね。」

「男ばっかでもつまらんわ〜。」

しゅんと肩を落とす金太郎を見て、苦笑するしかないは金太郎の頭をポンポンと叩く。

「また今度ね?」

「約束やで!」

「うん。」

「おおきに姉ちゃん!」

金太郎とがニコニコと笑い合うと千歳がポケットからケータイを出してに見せる。

、決勝は3日後ばい。」

「そうだね。コート整備とかあるみたいだから。」

「東京ば案内してくれんね?」

千歳の言葉に白石もグッドアイデアとアイコンタクトを送る。

「そっか。皆決勝も見て行くからまだ東京いるんだね。」

ちゃんが迷惑やなかったら考えてくれへん?」

「うん。ボランティアの仕事なかったらいいよ?」

と、上手く乗せられアドレス交換となる。

「…侑士が言っとったのはホンマやな…。」

「謙也くん?どうしたの?」

「自分、気つけた方がええで。」

乗せられ過ぎなを心配した謙也の口を塞ぎ白石がズルズルと引きずって行く。

「ケンヤ!何言うてるんや、行くで!」

「じゃあ、またメールするばい。」

「ほな姉ちゃんまーたなー!」

ポツンと1人残されたはケータイをカコンと開くとポチポチとメールを打ち始めた。





「…メールや。」

「おい侑士!置いてかれるぜ!」

「今行くわ。」

忍足がケータイを開くとメールの送信者は『

「(…からメールなんて珍しいな。)」

メールを開くとお疲れさまと始まり何行か空けた後にこう記されていた。

『さっき侑士のイトコの謙也くんに会ったよ♪謙也くんいい人だった!』

「…謙也…不憫な奴や…」

そう呟いて忍足は岳人が手招きする方へ小走りで走って行った。





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