第46章 思い出の決着


「久方ぶりだな、貞治。」

「4年と2ヶ月と15日ぶりだ。」

「昔の馴染みがあったところで容赦はしない。」

「もちろん望むところだよ。」

互いの顔色を伺う様にそんな会話をする2人。

「あの2人って知り合いだったの?」

「あぁ、かつてのダブルスコンビだったんだ。」

「ふーん・・・そうなんだ・・・お互いに手の内は知り尽くしてるんだね・・・。」

『ザ・ベスト・オブ・1セットマッチ乾サービスプレイ!!』

「蓮二この勝負・・・勝たせて貰うよ!」

いつもの乾とは段違いの気迫。データも冴え渡る。

「一緒にダブルスを組んでいて分かった事がある。」

「薫ちゃん?」

乾のプレーを見ていた海堂が誰に言うでもなく呟いた。

「あの人は紛れもねぇ・・・シングルスプレーヤーだ!!」





『ゲーム乾2−0!!』

乾が気迫と共に2ゲーム連取。だが、柳は不適な笑いを浮かべたまま。

「酷なことするぜ。」

「クク・・・。」

「やっぱ怖いべ、ウチの参謀はよう・・・。」

立海の会話通り、第3ゲーム柳が立て続けにポイントを取っていく。

「(まさか・・追いつくハズは・・・)」

「・・・フ。『柳蓮二は前後の動きには俊敏でも・・・ネット前での
左右の動きには若干フォローが遅れるはず』・・・と言うことか?」

「・・・・・・・・・。」

「どうやら当りのようだ。」

一気にポイントを奪われ青学サイドも動揺を隠せない。

「・・・・・・・・・・・・・・。」

「どうしたの?。」

「・・・・・あの柳って人・・・・周助みたいに開眼するんだね。」

「・・・・・柳君のは邪眼って言うんだよ♪(ニッコリ)」

「へぇ〜・・・そうなんだ・・・・。」

は納得していますが全くの嘘ですよ?

「前半のプレイを観察しデータを確信してから一気に反撃に出やがったのか。」

「・・・・・・」

「それだけじゃないよ。柳君は乾のデータテニスそのものを崩そうとしている。」

『ゲーム柳3−2!!』

「(俺のデータテニスが全て読まれていると言うのなら・・・俺は・・・俺はたった今からデータを捨てる!)」

「自分のプレイスタイルを捨てた者に勝利は無い。」

乾の心を読んだかのように柳は乾の頭上を越えるロブを放った。

「(勝負あったな・・・)」

「おおおおおおおおおおおお!がぁっ!!」

バシュッ・・・・乾の放った渾身のスマッシュが柳のラケットを弾き飛ばした。

「・・・そして俺は過去を凌駕する!」

メガネの奥から覗いた瞳が柳を射抜いた・・・・。

「乾の目が見えた・・・・。」

乾のショットと同じぐらいに目にも驚いている者がここに約1名。





「乾が・・・データを捨てた・・・。」

「あんな乾見た事ないんだけど・・・・。」

「ナ、ナイスファイト。」

「あれが・・・・・・データを捨てた乾のテニス。」

本能のまま、頭で考えるよりも身体が反応しボールを打っていく。

『ゲーム乾4−3!!』

「さしずめデータに頼らず動物的カンでプレイしようと言う事だろうが
そんなデタラメな思いつきのテニスで・・・我が立海大は倒せん!」

皇帝真田の言葉通りスピード・パワー共に格段に上がった柳がゲームを連取する。

「・・・俺は絶対に負けない。」

「行くぞ貞治覚悟!」

「!」

その言葉と共に柳の頭にはある思い出が蘇る。乾と柳2人しか知らない思い出が・・・。

「捨てたどころか俺さえも忘れていた。」

「蓮二、ここから先のデータは無い。決着をつける!!」

「返り討ちにしてやるぞ貞治っ!!」







『ゲーム乾6−5!!チェンジコート!!』

「(面白い未だ発展途上中とは。だが俺とてこれで終わるわけにはいかない!)」

負ける事の許されぬ王者立海大。その底力が柳に加担する。

『ゲームカウント6−6!!』

「タイブレークか・・・乾頑張れ・・・。」

「次のボクまで回してくれ乾。」

「頑張れ乾先輩っ!!」

今まで声を張り上げる事のなかったリョーマが乾に向かって叫んだ。

「おチビ・・・。」

「リョーマ・・・。」

タイブレークは両者一歩も譲らず長い長いラリーが続く。

「終わるんですか・・・・・・この試合。」

「ふん!」

『30−29乾リード!!』











――オレとお前いったいどちらが強いのか・・・――



――それは分からないでも・・・この試合は・・・落とすわけにはいかない!!――











『ゲームセットウォンバイ乾 7−6!!』


・・・4年と2ヶ月と15日経った今、乾と柳2人の思い出の決着に終止符が打たれた。





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