最後の予兆 |
「ふぅ。」 部屋の真ん中に立っては一呼吸置いた。 今日の試合。準決勝の立海戦の記憶が蘇って手が止まってしまう。 「?入っていい?」 「…周助?ドーゾ?」 部屋のドアがノックされ、大股でドアまで行きドアを開けてあげる。 不二の手には二つのマグカップが握られており、1つがに渡される。 「ありがと?」 「僕は紅茶だけどのはココアだよ。」 「どしたの?いつもこんな事してくれないでしょ?」 首を傾げながらココアを一口飲むと冷たくて甘いノド越し。 「ふー…。」 ココアを一口飲んでため息がこぼれる。 「そんなに僕が優しいのが珍しい?」 「え?いやそうじゃなくて。ちょっとホッとしたの。」 あの試合を目の当たりにしたのは自分だけ。 皆を信じてないわけではない。むしろ一番信じているのは自分だとも思っている。 だからこその不安がよぎる。 関東大会決勝前のリョーマと赤也の対戦。 そして関東大会決勝での不二と赤也の対戦。 どちらも青学が勝った。だけれどもその勝つまでの過程が恐ろしかったのだ。 そして準決勝。 立海のメンバーとは幾度か顔を合わせていたので試合前の雰囲気は普通だった。 そう。切原赤也の試合までは圧倒的といえど特に気になる事もなかった。 『ワカメ野郎』 その単語で火のついた赤也のプレイは今まで関東大会で見たプレイとは違うものだった。 『デビル』 そう誰かが呟いた言葉に似つかわしすぎる姿だった。 始まる前にあんなにに絡んできたブン太も仁王もそして幸村も。 硬直し動けなくなっていたであろうをみても声をかける事すらしなかった。 それが王者立海大のスタイルだとでも言うように。 「は明日の決勝緊張してる?」 「緊張というか…ドキドキしてる。」 「それって緊張してるって言わない?」 「うーん…でもほら、試合前の時は緊張してるっていう感覚があるのわかるんだけど。それとは違うドキドキがする。」 実際に戦うのは自分ではない。 だけどの中にあるのは恐怖だった。 …恐怖だった。それが不二と話す事で少し和らいでいる。 「へぇ。」 「でもいざ試合始まってスコアつけやってたらスコアつけにならないかも…ドキドキしすぎて。」 「それでもいいと思うよ。が応援してくれさえすれば。」 「…よかった決勝は担当から外れてて。周助は?明日試合出る感じ?」 「さぁ?」 いつもの笑顔で首を傾げられ回答をはぐらかされる。 一緒に住んではいるもののはぐらかされては一向に回答は得られないのを身を持って知っている。 「ところで。」 「何?」 「…部屋がいつもより散らかってるのは気のせい?」 「……キノセイダヨ?」 一瞬間を空け自分で部屋を見てみるが反論のしようがない程床に物が置いてある。 実質的に安全な場所はベッドの上のみ。 つまり二人は今のベッドに並んで座っている状態。 「どうしたの?急に片付けなんか。」 「いや急でもないんだけど…今日片付けないといけない気がして落ち着かなくて。」 「明日決勝なんだしむしろ明日でいいと思うんだけど。」 「私もそう思うんだけどさ。でも今日片付けなきゃいけない気がして 片付け始めてるんだけど…懐かしくて終わらないんだもん。」 「は毎回片付けの時そんな感じだよね。」 前不二が手伝った時も写真整理で中々片付けられず時間をかなり食った記憶がある。 「明日は早いんだから程々にしておきなよ。」 「そうだね。明日が最後だし。」 「…?」 「え?」 『最後』という言葉がから出てきた瞬間何か違和感を感じる不二。 だがそれが何か言葉が出てこずに名前を呼んでみるが振り返ったの顔は何も変わらない。 「どうしたの?周助。」 「ううん。オヤスミ。」 「うん。オヤスミ。」 ドアを静かに閉めた後マグカップを持ったままリビングへ降りる。 母は風呂だろうか。リビングには姉の由美子の姿。 「周助、ちゃんどうだった?」 「どうだったって…部屋片付けてたよ?」 「そう。」 「姉さん?」 「明日が最後なんだからしっかり頑張りなさい。」 「…うん。」 明日は全国大会決勝。中学生活で最後のテニスだ。 頑張って、と言われる分には何も違和感はないはずなのに不二は違和感を感じた。 だがそれが何かは自分でもわからない。心に何かが引っかかるのだ。 明日は最後の試合。そして・・・・最後の時が訪れる。 BACK |